減量を伴わずに糖尿病治療ができる。もしそうなら、グルメを楽しみながら健康も維持できるのだが、果たしてそう上手くいくのだろうか。
「肥満のまま糖尿病を改善へ(註1)」。2007年10月の新聞[i]にこんな記事が載った。これまで糖尿病の治療といえば、まず「食事」、「運動」、それでだめなら「薬」と言われてきた。糖尿病の患者には、肥満の改善が第一の治療だった。
しかし、新手のダイエット法が次から次へと生まれては消えていく事実がしめすように、ダイエットを成功させることは非常に難しい。それは糖尿病患者にとっても同じこと。こちらは命が係っているだけにさらに深刻だ。宴会の席でのお酒も我慢している、お昼も野菜を中心にした軽めのお弁当、でも何だか体に力が入らない、減量も上手くいかない、家族はうるさい、・・・もう、どうにでもなれ、とやけっぱちになり、「燃え尽き症候群(註2)」も併発(?)している糖尿病患者はかなりの数にのぼるらしい。
そこに、この福音である。肥満のままでも糖尿病の治療ができる可能性が出てきたのだ。筑波大学大学院の島野仁准教授(内分泌代謝学)らは、肥満になっても脂肪の質を変化させれば糖尿病になりにくいことを、動物実験で突き止めた[ii]。
島野准教授のグループが行った実験は次のようなものだ。体内で脂肪酸を合成する過程で働くElovl6という酵素の遺伝子を働かなくしたマウスを作成し、あえて高脂肪食を与える。当然、マウスは肥満、脂肪肝になったが、しかし糖尿病の原因となる症状は現れなかったのだ。つまりこの酵素の働きを邪魔することで、太ったままで糖尿病の治療ができる可能性が示されたわけだ。
ではこの酵素をノックアウトしたマウスの体の中で、一体何が起こったのだろうか。脂肪酸合成の過程で通常パルミチン酸はステアリン酸に転換されるが、このマウスでは、パルミトイル酸に転換されていた。糖尿病の発症に大きくかかわるのは、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンだ。インスリンの効きが悪くなると糖尿病になるわけだが、この実験からは体内の脂肪酸の組成を変えることで、インスリンの効きの低下(=糖尿病の発症)を抑えられるかも知れない、ということがしめされている。