ミシュランの観光ガイドで三ツ星を得た東京の高尾山は人気の観光地だが、その近くに「裏高尾」があることはほとんど知られていない。ここで2009年4月、ある「森」が一般開放された。第二の人気スポットを目指すのか、それとも? 現地で人々の思いを聞いた。
【写真:「こげさわの森」を走る林道】
JR高尾駅の北口から京王バスに乗る。15分ほど山道を登り、バス停「日影」で下車。15分ほど山のなかを歩く。アスファルトで舗装された道路が砂利道へと変わり、赤土がむき出しの林道へと変われば、そこがもう一つの高尾山、「こげさわの森」への入り口だ。
新緑の木々の間から差し込む木漏れ日が心地よい。耳をすますと、うぐいすやしじゅうからのさえずりが聞こえてくる。林道に沿って流れる沢のせせらぎが涼しげだ。緑一色の草木の中で木イチゴの赤色が映える。一口かじると、木イチゴのほのかな甘みと酸味が同時に口の中に広がる。天然の果実らしく、それらは長くは続かず、すぐに渋みに顔をしかめることになるのだが。
「こげさわの森」は東京都が「保険保安林」に指定している。空気の浄化などの環境保全や森林浴といったリクリエーションに利用するための森林だ。一般の人々が入れるように林道や散策路が舗装され、休憩所として利用できる東屋やトイレもある。早稲田大学ボランティアセンター(WAVOC)とNPO法人「森づくりフォーラム」が中心となって、2005年から整備を進めてきた。彼らの「こげさわの森」への期待は大きい。WAVOCの和田紘正さんは「森は人間が生きていく上で欠かすことのできない原点」と話す。秋に散る落ち葉は土壌をゆたかにし、その土壌が養分に富んだ水を生む。その水はふもとの稲作に欠かせない。海に流れ込み、近海の豊富な漁業資源の源にもなる。「特に若い人たちに森に足を踏み入れてほしい。森を訪れることは環境について考えるきっかけになると思う」
「森づくりフォーラム」代表の坂井武志さんは、地域住民が集まり世代間交流を進める場にしたいと考えている。「お年寄りたちは森林の樹木を利用して身の回りの家具や道具を作る方法など豊富な知識を持っているのに、それを若い世代に伝える場がない。こげさわの森を活用できないだろうか」
しかし、森の現状と関係者の期待の間には大きな差があるように見える。
なにより森そのものが地元の裏高尾町の人々にさえほとんど知られていない。JR高尾駅の北口にあるみやげ物屋「岸本屋」の主人は「木下沢の名は昔からの地名として知っているが、『こげさわの森』が新たにオープンしたという話は聞いたことがない」という。駅職員に森への行き方を聞いたら森の存在そのものを知らなかった。路線バスの運転手も「そういう森の名前は聞いたことがない」と言う。
知られていないから訪れる人も少ない。平日の昼間に「こげさわの森」に1時間半ほど滞在したが、森を訪れたのは林道を走りぬけてゆく自家用車と工事用トラックが1台ずつのみだった。同じ日に訪れた高尾山が、小学校の遠足やお年寄り、外国人観光客などでにぎわいを見せていたのとは対照的だった。休日でも「こげさわの森」を訪れる人は30分に1人いればいい方で、十分に利用されているとは言い難い。この点は坂井さんも認めており、「認知度はまだまだ。ホームページなどを利用して宣伝活動をしているが、知ってもらうことがいちばん難しい」と話す。