早稲田大学生協のオリジナル商品「焼き立てパン」が学生たちに人気だ。22種類あって、昼前になると、売り場は学生たちで賑わう。私も食べてみた。たしかにおいしい。でも、「焼き立て」って本当だろうか。どこで、だれが作っているのだろう。
(トップ写真:早大生協店長の高祖亜希子さん)
早稲田キャンパスのほぼ中央にある7号館に入ると、生協の「焼き立てパン販売中」の看板が目に入る。地下1階へ向かう矢印に従って、階段を降りる。
昼過ぎの店内は昼食を買い求める学生たちでいっぱいだ。店の入口付近にある「焼き立てパン」のコーナーでは、彼らがパンを次々とビニール袋に詰め、レジへ持って行く。ショコワッサン、ベーグル、ピロシキパンなどなど。70円から180円と、どれも手ごろな値段だ。(下写真:生協の「焼き立てパン」のコーナー=14号館の生協)

国際教養学部1年の女子学生は「アップルシナモンベーグルとメロンパンの大ファンです。コンビニのパンにはない柔らかさが気に入っています」という。社会学部3年の原田知典さんは価格重視で選ぶ。「ベーグルが好きです。100円なのに歯ごたえがある。1個でもお腹にたまる感じがする」と話す。
どこでパンを作っているのだろう。何人かの学生たちに聞いたが、だれも知らなかった。大学から離れたところに工場があるのだろうか。でも、それでは「焼き立て」とは言えないだろう......。 生協店長の高祖亜希子さんにたずねた。すると、「29号館で作っています」という答えが返ってきた。
え、大学の中で?
それは、早大キャンパスの脇を走るグランド坂を上りきった左手にあった。
「工場」を予想していたが、目の前にあるのは「食堂」の看板。高祖さんによると、この29号館は生協が38年前から運営している学生食堂だった。2003年から1階厨房の一角を「パン工場」として使っている。こぢんまりとした4階建ての建物には、色あせた赤い雨樋が下がり、なんとなく「昭和」の雰囲気がただよっている。
午前10時半、許可をもらって中に入った。蒸すような暑さだ。2台の大型オーブンが炎を赤々と燃やし、ガラス窓の向こうでは10人前はありそうなチョリソーピザが2枚、こんがりと焼け始めていた。
中では7人の女性たちが働いている。その1人、小林雅栄さんは「午前中は時間との競争。目が回る忙しさよ」と話す。額に玉の汗を浮かばせながらオーブンをフル回転させる。午前9時までにベーグルを350個、11時までに総菜パンと菓子パンを370個焼き上げるのだ。小林さんがオーブン扉の取っ手を引くと、ピザが湯気を吹き出した。チーズの香りがこちらまで広がる。
すぐにカットに入るのは山下エイさんだ。ピザカッターを手に、長方形のピザに大きく十字を入れ、さらに中心から放射線状に割いてゆく。次々と三角形が出来上がっていった。一つずつ紙に包み小林さんに手渡す。息の合った作業でパンケースはみるみるピザで一杯になった。(写真:カットしたチョリソーピザを紙に包む山下エイさん=29号館の厨房)
厨房の別のエリアでは松原茂子さんがメロンパンの生地を手際良く鉄板に並べていた。大手の山崎製パンから仕入れた生地を冷凍状態で保存し、その日に焼く分だけ解凍する。生地が空気に触れて発酵したら、焼きに入る。冬場はパンがなかなか解凍しないので、早朝から陽だまりを探し回るそうだ。