早稲田大学でできる天体観測,と聞いてどんな想像をするだろうか。プラネタリウム?それとも望遠鏡?肉眼では見えない星に出会うために都会で天体観測が行われていた・・・もうひとつの宇宙「電波天文学」への招待。今宵,空を見上げてみませんか?
都会では空を眺めることなどほとんどありませんが、空気の澄んだ山里などに行くと、ふと見上げた夜空に瞬く星の数にいつも驚かされます。その小さな輝きに都会の喧騒を忘れる一方で、電灯で明るい街中ではこんな数の星はとても見られないなと、少し寂しい気持ちにもなってしまうものです。しかし、大都会・東京の真ん中で星を、それも“見えない星”を追い続けている人がいました。早稲田大学教育学部教授、大師堂経明先生。電波天文学の最先端を行く人です。
「天文学者」と聞くと、大きな天文台で望遠鏡を覗いている人物を思い浮かべるかもしれません。けれども、目で見ることが星の姿を知る唯一の方法ではありません。天体の様子を知るために、私たちが普段目で見ている光、つまり「可視光」ではなく、「電波」を使う方法が考え出されました。
星などの天体の中には、電波を放射しているものがあります。それをうまくキャッチして天体の様子を探ろうとするのが「電波天文学」です。光よりも波長が長い電波は途中で障害物に邪魔されにくいため、光を通さない天体の後ろ側にある星、つまり目では見えない星さえ観測することが出来ます。
もちろん、電波自体も人の目には見えないものですから、普通の望遠鏡ではなく、「電波望遠鏡」と呼ばれるパラボラアンテナを使ってとらえます。電波天文学の発展によって、規則正しく電波を放射する“パルサー”や、遠くにある上にあまりに明るいために恒星のように見える銀河“クェーサー”などの新しい天体が次々と発見されました。
電波を観測することで、普通の光で見た時とはまた違う、もうひとつの宇宙の姿が見えてくるのです。まさに、「見えない星を見る」学問が電波天文学と言えるでしょう。
大師堂先生は、早稲田大学の西早稲田キャンパス15号館の屋上に設置した64台の電波望遠鏡を使って、天体の観測を行なっています。この電波望遠鏡は先生が独自に設置したもので、海外からも多くの視察の人々が訪れるほど有名なものです。それにしてもなぜ、そのような最先端の望遠鏡がビルの屋上という、決して広くない場所に作られたのでしょうか?
実は、先生が早稲田大学に着任した1970年代当時、既にアメリカやヨーロッパではもっと大規模な電波望遠鏡の開発が始まっていました。電波望遠鏡は普通、アンテナの口径が大きければ大きいほど、天体をよりはっきりと見ることができるようになります。しかし、大きな望遠鏡を作るにはその重さに耐えうる構造が必要になるため、費用や力学上の問題でどうしても大きさに限界がありました。
そこで考案されたのが、長いケーブルで結んだ小さな望遠鏡を複数設置する「電波干渉計」という観測装置です。この望遠鏡の登場のおかげで、大きなアンテナを作らなくても非常に精密な電波観測ができるようになったのです。
アメリカはVLAと呼ばれる巨大な電波干渉計を建設し、他に先んじて大きな成果を上げました。さらに欧米では、ケーブルで結べないほどの長距離間での観測を可能にするVLBI(超長基線長干渉計)の開発が盛んに行なわれていました。国際学会に参加した大師堂先生は、当時は「必死でノートを取るばかりで、議論には加われなかった」と言います。それほどアメリカやヨーロッパは、圧倒的な研究を行なっていたのです。