2005年愛知万博の三井・東芝館で上映されたフルCG映画『グランオデッセイ』は、エンターテイメントの新しい形として多くの人々の間で好評を博した。この映画を支えた技術、「フューチャーキャストシステム」を開発した早稲田大学理工学術院応用物理学科の森島繁生教授に話を聞いた田中・吉永がそれぞれの視点から報告する。
2005年に開催された「愛・地球博」では、先進的な技術を紹介するイベントが数多く企画された。
そのひとつ、三井・東芝館で上映されたフルCG映画『グランオデッセイ』は、エンターテイメントの新しい形として多くの人々の間で好評を博した。この映画を支えた技術、「フューチャーキャストシステム」を開発した人こそ、早稲田大学理工学術院応用物理学科の森島繁生教授である。
「今までどこにもないイベント」を目指したと言う、この『グランオデッセイ』を一言で表せば、"誰もが主人公になれる映画"である。
まず、劇場の入り口に設置された7台のカメラで入場者ひとりひとりの顔の立体形状を計測し、それを元に顔のCGを作成する。それをリアルタイムでストーリー映像の中に合成することで、観客自身を映画の出演者として登場させることが出来るのだ。
宇宙を舞台にした壮大な物語、その中で活躍する自分の姿を見つけることは、他のどんな映画でも味わえない喜びと興奮がある。『グランオデッセイ』は、約163万人もの観客が訪れる人気展示となった。
恐竜や宇宙人を描くのに比べれば、現実の人間の顔を再現することなど簡単そうに思えるかもしれない。だが、スタジオで作り込まれたCG映像とは異なり、『グランオデッセイ』には、その特徴ゆえに様々な制約が課せられていた。
まず、スピードの問題である。一回の上映で合成される顔のポリゴンモデルは実に240人分。CG処理が自動化されていないと、とても上映までには間に合わない。
また、顔の形だけ再現しても映画にはならない。再現した顔CGに演技をさせるためには、表情の変化を合成する必要がある。
さらには、配役を決定するために年齢や性別などの情報を抽出しなければならない。それも、顔写真のみから行なわなければならないのである。
それだけの処理を短時間に自動で、しかも確実に行なうためには、高速かつ安定性の高いシステムが不可欠であった。
その高いハードルを越えて開発されたのが、フューチャーキャストシステムだったのである。
一方で、森島教授は「技術が優れているだけでは駄目だ」と語る。
たしかに、時間とコストさえかければ、もっとリアルな映像は作れるかもしれない。しかし、それは「すごい映像」ではあっても、決して163万もの人々を魅了する「感動的な映像」とはならない、と言うのである。
『グランオデッセイ』は、派手なCG演出に慣れきってしまった私たちにも、新鮮な驚きと感動を与えてくれた。その「感動」こそ、森島教授が目指したものだったのだ。