2005年愛知万博の三井・東芝館で上映されたフルCG映画『グランオデッセイ』は、エンターテイメントの新しい形として多くの人々の間で好評を博した。この映画を支えた技術、「フューチャーキャストシステム」を開発した早稲田大学理工学術院応用物理学科の森島繁生教授に話を聞いた田中・吉永がそれぞれの視点から報告する。
森島研究室の現在の研究テーマは、このシステムにより磨きをかけることだという。その根本にある発想は主に2つ。1つはその人らしさを再現すること。もう1つは言うならば、「早く・安く・上手く」。つまり、如何にして短時間に低コストで質の高いものを作るかだ。
表情の合成方法の研究は、この2つを示す最も良い例だろう。予め用意した32パターンある表情の基本単位を、特定の割合で合成することで目的の表情を作り出す。これが、従来の表情の作り方だった。しかしこの方法では計算量が膨大となるため、時間とコストがかかりすぎてしまう。また複数の表情を合成するため、顔のしわが消えてしまいリアリティが薄れてしまうという欠点もあった。
これを解消するために開発されたのが、表情筋を利用した合成方法だ。人間の顔の筋肉をばねのようなものに見立て、物理的な計算によって表情を合成する。実は表情筋は生物学的にも、未だ謎につつまれている部分が多い筋肉である。そのため森島教授は解剖実験にも立会い、本物の表情筋からも研究を進めた。CGの研究のために解剖に立ち会うというのは、驚きを禁じえない。
表情だけではなく髪の毛の再現も、森島研の重要な研究課題のひとつである。体の動きや吹き抜ける風にあわせて、本物さながらに動く髪を表現することは出来ないだろうか。髪の毛一本一本の動きを物理的な計算で作ることは可能だが、より低コストかつ短時間で作り出すのが課題だった。
そこで森島教授が考えたのが、アニメの技術を応用することである。アニメの映像のように髪の毛をいくつかの大きな束で捉え、動かしていく。これによって計算量が大幅に減らせるため、時間やコストの削減だけでなく実用性も高めることに成功したのだ。
「その人らしさ」は、必ずしも顔だけにあるとは限らない。例えば歩き方。少し気を配って周りを見れば判るが歩き方にも個人差があり、最近では指紋などの代わりにセキュリティへの利用が検討されているという。
こういった個人の癖やバレエなどの複雑な動きを再現する方法として、森島教授は骨の動きに注目した。従来のように体の表面の映像を取り込むのではなく、そこから内側の骨の動きを計算して反映させる。ガイコツがバレエを踊るサンプル映像は見た目こそ少々異様だが、確かにバレエの持つ繊細な動きを見事に再現していた。体格が違う人物の再現も、骨格を利用すると骨の長さを変えるだけで容易に可能となるという。森島教授は人間の様々な動きの骨格データベースを作り、CGでの再現に役立てるつもりだと語った。