劇団四季の初舞台にたって10年。雲田隆弘さんは、今でも初めてミュージカル「キャッツ」を見た日の気持ちを忘れない、という。 「あの曲が流れ、ネコが躍るのを観ると、たまらないんです」
そんな彼の心をつかんで離さないものは何なのか。
雲田さんが役者になりたいと思ったのは、広島にいた高校生の頃。「予備校ブギ」という早稲田大学を目指す青春ドラマを見たときだ。役者になろう。早稲田大学に行こう。そんな思いを胸に受験した。二浪して頑張って政治経済学部に入ったものの、あこがれていたのは大学ではなく役者だと気づいた。大学に籍を置きながら文学座の養成機関に通う日々を過ごした。そしてそんなある日、劇団四季の「キャッツ」に出会う。
「衝撃でした。セリフに加えて歌と踊り。共感というか、共鳴というか、まさに感動でした」。
本格的なミュージカルを見たのは初めて。すぐに心は決まった。劇団四季の俳優になろうと決意し、受験。大学を卒業すると同時に研究生として入所した。
そして今、ロングラン・ミュージカル「ライオンキング」で、王様の執事ザズーを8年間演じている。どんなところに苦労があるのだろうか。
「役者の仕事は見えているものがすべてです。自分がどれだけ一生懸命やったなんてこと、全然関係ないんです。自分の思いが観客に伝わっていないと感じる時が、やっぱりつらいです」
インタビューに備えて「ライオンキング」の舞台を見た時のことを思い出した。同じ列に座っていた女の子が突然泣き始めたのだ。隣のお母さんも彼女の肩に手をやり、ハンカチを握りしめている。その親子は観客としてフロアにいながら、舞台と一緒になって泣いていた。そして間もなく、劇場全体が大きな拍手に包まれた。
「観客のみなさんと気持ちが一致した時、それが一番うれしいです。本番でお客様に拍手をして頂いた時がたまらないんです」
そう語る、雲田さんの笑顔はすばらしい。
舞台で見るより小柄な印象の雲田さんだが、声の大きさは舞台そのままだ。言葉がそのまま体にぶつかってくる。
「ミュージカルの魅力は、生身の人間が体を動かし、大きな声を出し、エネルギーを発散することです。そして作品が、強いメッセージを持っていることだと思います」
では、作品の持つメッセージとは何だろう。
「舞台を見た方からお手紙を頂くことがあります。『頑張って明日からも生きていく』と書いてあると、本当にうれしいです。私もまた頑張ろうと思います。『人生は生きるに値する』というメッセージをお客様に感じていただけることこそが、劇団四季のミュージカルの魅力だと思います」
カーテンコールの幕が降りた後も、雲田さんがステップを踏む足が、カーテンの裾を揺らしている。いつか「キャッツ」の舞台に立つ日まで、いや、それからもずっと、ミュージカルは雲田さんの心を離さないだろう。
「将来、やりたい役」と聞かれたら、「恥ずかしくて言えない」と答えるほどシャイな雲田さん。舞台の上では別人だ。雲田さんは今日も、歌い、踊り、「生きるに活力」を観客に届ける。そしてその思いは、観客の胸で燃え続けているに違いない。
●取材協力・写真提供:劇団四季
※この記事は、08年前期のJ-School講義「ニューズルームE」において、刀祢館正明先生の指導のもとに作成しました。