早稲田大学周辺の新宿区西早稲田・戸山地区を歩くと、意外に公園が多く、緑がかなりたくさん残っていることに気がつく。一見すると恵まれた環境である。しかし注視すると、ベンチに座って携帯ゲームをしている子どもや、ボールの使用を禁止している看板が目につく。
こうした環境の中で、子どもたちはスポーツに対してどのように取り組んでいるのか。小学生の野球チームを取材した。
2008年7月も2週目を終えた日曜日。梅雨明け前に特有のもわっとした蒸し暑さ。耳を澄ませば、せみの鳴き声が聞こえそうなくらいの真夏日に、区立中学校の校庭で小学生の野球大会が開かれていた。
東戸山スリースターズに所属する小学6年生の五味尚樹君(12)は、ファーストを守る俊足の1番バッターである。細身ながら器用さとバネを兼ね備えるチームの主力選手だ。3年生から始めたという野球は、3年間で瞬く間に上達し、この日はホームランを打った。もっとうまくなって、プロ野球選手になりたいという夢を持っているが、そのための練習環境に恵まれていないことを嘆いている。

「前はもうちょっと公園でもボールが使えたんだけど、最近ますます使えるところが減っちゃったんです。もっと場所があれば、チームの練習以外でも友達と野球ができるのに......」
チームを率いて20年になる西條剛監督(58)は、他区チームとの差についてこう分析する。
「決定的な違いは、グラウンドが少ないことです。練習環境に恵まれない中では、区大会を勝ち上がっても、その先の上位大会で勝ち進むことは難しい」
技術を比較しても、全体的に他区の方が上であるとし、下町の広い河川敷のグラウンドで存分に練習しているチームの強さを感じるという。
普段から公園でボールが使えれば、もっと技術が向上する可能性もある。そこに子どもの可能性が広がる要素は十分にある。
新宿区に生まれ育ったという五味君の母親の浩美さん(44)は、子どもを取り囲む環境の変化をこのように見ている。
「子どもたちはゲームをするようになり、身体を動かさなくなったし、そもそも遊ぶ場所が少ないと思います。団地内の敷地で野球をやると注意されるし......。親としてはできる限り協力してあげたいけど、こうした環境で子どもがのびのび育つのは難しいですね」
昔はもっと緑が多く、虫などもたくさんいたが、バブルが崩壊した15年ほど前からそうした場所が減ったように感じているという。
「周りでは高齢者が増えてきており、少子化も進む中、大人がどう子どもたちを見守っていくのかが大切なのに、その理解が少ないような気がして残念です」
子どもが公園でけがをした場合、そこに指導者や保護者がいなければ、公園管理者が責任を問われなければならなくなる。早朝の練習や大会の開会式などに対して、騒音のため、近隣から苦情が出ることもあり、理解を得るのが難しい部分はある。しかし、それに手をこまねいていては、スポーツをする子どもたちの未来は陰ってしまう。